static メソッドによるインスタンス生成
概要
static メソッドとは、オブジェクト指向言語において、インスタンスを生成せずとも
処理を実行できるクラスに関連づけられたメソッドである。
使用例としては、便利な機能を提供する Util クラスを作成する場合に用いられ、
Java ライブラリでは、java.lang.Math、java.util.Collections クラスなどがそれにあたる。
これ以外にも、インスタンス生成をコントロールする場合、実装の内部情報を隠す際にも用いられる。
この場合についての説明を記述する。
詳細説明
比較用クラス
トランプのクラスを例として説明する。まず、次のCardクラスを2通りの方法で作成する。
一般的な構造をしたCardクラス
// カードクラス public class Card { // スーツ public String suit; // 番号 A->1, 2->2, ..., 10->10, J->11, Q->12, K->13とする public int num; // コンストラクタ public Card(String suit, int num) { this.suit = suit; this.num = num; } }
クライアントがCardクラスを利用する場合のコード記述例。
Card clobAce = new Card("clob", 1);
staticメソッドでCardクラスを取得するよう変更
// カードクラス public class Card { // スーツ private String suit; // 番号 A->1, 2->2, ..., 10->10, J->11, Q->12, K->13とする private int num; // ここを変更! プライベートコンストラクタ private Card(String suit, int num) { this.suit = suit; this.num = num; } // ここを追加! インスタンス生成用メソッド public static Card getCard(String suit, int num) { return new Card(suit, num); } }
クライアントでは次の呼び出し方法となる。
Card clobAce = Card.getCard("clob", 1);
static メソッド利点1. インスタンスを毎回作成しなくて良い
もし作成するインスタンスが次のようだったとしよう。
- 作成にコスト(生成時間/メモリ)がかかる
- 同じインスタンスを多数回作成
- 一度作成すればそれらを使い回せる
このような場合、既存インスタンスを使い回したいと思うだろう。
しかし、コンストラクタは必ずインスタンスを作成してしまうため実現できない。
staticメソッドであれば、メソッド内でその制御を行うことにより実現できる。
// インスタンスをプールする private static Map<String, Card> pool = new HashMap<String, Card>(); // インスタンス生成用関数 public static Card getCard(String suit, int num) { String id = suit + num; if (!pool.containsKey(id)) { pool.put(id, new Card(suit, num)); } return pool.get(id); }
これによって、以下のパフォーマンス改善が見込まれる。
- メモリ領域の節約
- 処理速度向上(インスタンス作成回数減少/ガーベジコレクション減少)
static メソッド利点2. 適切な名前が使える
このCardクラスは、修正されることになった。それは ジョーカーの追加だ。
では、staticメソッドを用いない場合のジョーカーを作成するとしよう。
今回は suitが null でかつ num が 0 ならジョーカーだという仕様にしたとする。
こんな仕様を理解できるのは、説明書きを読むか、実際のコードを見ないと分からない。
しかし、クライアントはジョーカーを扱う場合、以下のように書かねばならない。
// これが ジョーカーだ! ← 分かるかー!! Card joker = new Card(null, 0);
これをstaticメソッドを使って書き直す場合。Cardクラス定義に以下を追加、
// ジョーカー作成用メソッド public static Card getJoker() { return new Card(null, 0); }
クライアントは次のように変更する。
// これが ジョーカーだ!
Card joker = Card.getJoker();
この実装により、クライアントのコードは非常に分かりやすくなる。
適切なメソッド名が使えるのは、staticメソッドを使ううえで重要な利点だ。
static メソッド利点3. インスタンスの内部情報を隠す
さきほどのコードでは、ジョーカーの内部情報(suitとnum)をクライアントが直接記述している。
今後、ジョーカーの仕様を変更すれば、これらを利用しているクライアントのプログラムも変更しなければならない。
つまり、クライアントに影響がでないようにしたいなら、今後その仕様を変更しないになる。
それは今後修正されるであろう、パフォーマンスの改善もできなくなることを意味する。
それに比べ、static メソッドによる実装は内部情報を隠しているため、
今後ジョーカーの内部情報を変更しても、クライアントのプログラムには影響を及ぼさない。
static メソッド利点4. 生成するインスタンスを変更
絵柄カード(J, Q, K)は、他のカードとは異なる性質を有する場合がある。
例えば、ブラックジャックでは、他の数カードと異なり、Aは1か11、J,Q,K は10になる。
カードによって挙動が異なる場合は、Cardクラスを継承した
FaceCardクラス(コードでは省略)を新たに作成すべきだろう。
そして、static メソッドを用いた場合は、CardクラスだけではなくFaceCardクラスのインスタンスを返しても良い。
// インスタンス生成用メソッド public static Card getCard(String suit, int num) { if (10 < num && num < 14) { return new FaceCard(suit, num); } return new Card(suit, num); }
このようなことは、コンストラクタを用いたインスタンスの生成では不可能だ。
なぜなら、コンストラクタは実装クラスが何かを公開しているから。
これがstaticメソッドを用いた場合、クライアントは、Cardクラスのファミリーの何かが返ってくると認識する。
つまり、ファミリー(Cardクラスを継承している)なら、今後何を返されても構わないのだ。
結論
プログラムは設計段階では、今後変更されるかもしれない箇所が予想できる場合がある。
それは、機能追加やパフォーマンス/セキュリティ上の問題解決かもしれないが、
いずれにせよ、それを改善するための方法は、大体は以下を行う事である。
これらの変更をクライアントに今後意識させたくなければ、
static メソッドを用いたインスタンス生成を行うことを考慮した方が良い。
そうすることで、今後の追加やメンテナンスに対して多大なコストをかけずに変更できる。
あとがき
基本的に下記書物の最初の項に具体例を入れてまとめただけです(^^;
参考図書
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